岡部幸雄

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岡部幸雄さんにとって、シンボリルドルフはどんな存在ですか?

一言で言えば、騎手人生を変えてくれた馬、それまでの概念がすべてひっくり返りました。

一言で言えば、騎手人生を変えてくれた馬です。それまでに出会ったことのない、初めてのタイプの馬でした。最初に乗ったのは確か2歳の5月。故・野平祐二調教師に「調教に乗ってくれ」と言われて跨ったのですが、体もできていましたし、精神面、仕草など何から何までこれが2歳のこの時期の馬なのかと驚きました。他の馬より半年も1年も先に行っている、そういう大人びた馬でしたし、それまでの概念がすべてひっくり返りましたね。彼と出会ったからこそ、僕はフリーになったんです。この馬でダービーを取れなかったら生涯取れないだろうと思いました。「嫌ならいつでも降りていい、そのかわり良かったらいつまでも乗っていていいから」と野平先生が言ってくれたので、フリーになるしかないと決心して(所属の鈴木清厩舎を離れて)すぐにフリーになりました。

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シンボリルドルフの最大の強みはどんなところでしたか?

ウィークポイントがとても少ない馬で、乗っていて不安な面は全くなかったです。

優れていたのは皮膚の薄さですね。薄いけど丈夫という、高級な和紙のような感覚ですね。新陳代謝がすごく良くて、真冬でも汗をかいて調教から上がってきて、クールダウンするとあっという間に汗が引く。そういう皮膚の馬でした。レースは1戦1戦やってみなければわからないですけど、ウィークポイントがとても少ない馬で、乗っていて不安な面は全くなかったです。走る馬というのはガツンとかかって行ったりするものですが、この馬はそれが1度もなかったですし、操作性に優れていましたから、どんな競馬でもできました。3歳のジャパンCで3着に敗れましたが、その後の有馬記念の時に「前走の借りは返してこいよ!」と野平先生に言われて、完璧なレースで優勝しました。1度負けても2度同じことは繰り返さない。そこがスーパースターだと思いますね。

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シンボリルドルフのレースでいちばん印象に残っているのは?

ルドルフをもってしても思惑通りにはさせてくれない。それがダービーなのだと実感しました。

やはりダービーですね。皐月賞は楽に勝ったから、ダービーではステッキを1度も使わず、馬なりで腰を浮かせたままゴールをしようと考えていました。それがレース展開もそうですけど、皐月賞とは手応えがちょっと違ったので、あれっ?と少し不安になりました。後にも先にもあの時だけですね、不安がよぎったのは。それでも直線に向いて態勢が整うと、もう1度手前が替わって、ゴーサインを出したらスッと前に出ましたので、ああ大丈夫だなと思いました。僕自身、それまでダービーに勝ったことがなかったので、後から考えると人間側に変なプレッシャーのようなものがあったのでしょう。馬なりで腰を浮かせたまま勝つなんてこの馬にしかできないだろうと思ったのですが、やっぱりできなかった…。ルドルフをもってしても思惑通りにはさせてくれない。それがダービーなのだと実感しました。

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シンボリルドルフは周りの馬との格の違い、上下関係を理解していましたか?

いつでも殿様。調教をやっても最後まで一緒にパートナーとして走れる馬は1頭もいませんでした。

いつでも殿様でした(笑)。トレセンや競馬場では表には出さないですけど、牧場ではボスでしたね。周りにいる気に入らない馬にルドルフが一瞥しただけで、その馬はもう近づきません。調教でも最初は一緒にスタートして前後くらいにいても、最後までルドルフと一緒にパートナーで走れる馬は1頭もいませんでした。あの(1歳年下のダービー馬)シリウスシンボリでさえそうでした。シリウスは乗り手が行けと言っても、ルドルフのそばに近寄らなかったように、馬同士の格がちゃんとあるんです。競馬でも4コーナーでルドルフに馬なりで来られたら、周りの馬は萎縮してしまうと思いますよ。ですからこの馬に乗る時には、余計なことを考えずに普通にレースをしてくればいいと思っていました。菊花賞の時も2着馬とはあまり差はないですけど、普通にレースをしてきたら三冠を達成したという感じでした。

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シンボリルドルフが現代の競馬を走るとするとどんなレースになると思いますか?

素軽い動きができる馬ですし、瞬発力もありましたから、今の馬場にも対応できると思います。

時計を出すタイプの馬ではないですけど、素軽い動きができる馬ですし、瞬発力もありましたから、今の馬場にも対応できるでしょう。ただ、ダービーの時のようにボコボコの土の上を走ってくるような馬場は経験していますけど、うんと悪くなった馬場、ヨーロッパのようなドロドロの重い馬場は未経験なので、そうなった時にどうなのかはわからないですね。適距離は2000~2400mだと思います。位置取りはレース展開次第ですけど、どこからでも動ける馬ですからね。この馬の全兄のシンボリフレンドは、前にどんどん走っていってしまってハンドルのきかない馬だったので、ルドルフにはそれを教訓にして、厩舎や関係者はやってはいけないことを消去法で全部カットして、追い詰め過ぎないように調教やレース選択をしてきました。それで操作も楽でしたし、動こうと思えば動けてどんな競馬でもできると思います。

武豊

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武豊騎手にとって、ディープインパクトとはどんな存在ですか?

いつかこういう馬に出会えるんじゃないかと夢見ていた馬です。

ものすごい衝撃、まさに“ディープ・インパクト”でした。初めて乗ったデビュー前の追い切りでまず衝撃を受けて、実際にレースに乗って確信しました。すごい馬と出会ったと。ダービーは最初の大きな目標でしたが、普通に走ればまず負けないという自信はあって、だから勝ったときはホッとしましたね。その次の菊花賞は、勝って当たり前、三冠馬になって当たり前という空気がすごくて、あれはちょっと他の馬では得られない経験でした。あのプレッシャーの経験は、たとえばキタサンブラックなどで活きていると思います。三冠馬に乗るというのは僕にとって夢のひとつで、ディープはそれを叶えてくれた馬。いつかこういう馬に出会えるんじゃないかと夢見ていた馬です。そういう馬が本当に現れるんだと教えてもらったことで、今も同じ気持ちを抱き続けることができています。

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ディープインパクトの最大の強みはどんなところでしたか?

シンプルに足が速いということ、競馬において最も大事な「走りの速さ」です。

いちばんはシンプルに足が速いということ、競馬において最も大事な「走りの速さ」です。逆に苦労したのは気持ちのコントロールです。とにかく走るのが大好きで、気持ちが前面に出すぎてしまう馬だったので、そこは気を遣いました。3歳の有馬記念と凱旋門賞、負けた2戦の敗因は、馬の状態があまり良くなかったことです。競走馬の難しさですが、万全で走らせてあげたかったという思いは今もありますね。ディープに関しては、ある時期からは仕上げは厩舎に任せて、僕は1週前追い切りだけで余計なことをしないようにしていました。鍛えてもっと強くするのではなく、とにかくキープすることを大事にしようという意識を厩舎と共有していました。ベストレースは最後の有馬記念かな。完成した感じがありましたし、騎手としても、やっと完璧に乗れたかなと思ったレースです。

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シンボリルドルフに対するイメージは?

三冠はぜんぶ生で見ています。いちばん好きな馬で、もう大ファンでした。

ルドルフが三冠馬になったのは僕が競馬学校に入った年で、ぜんぶ生で見ています。いちばん好きな馬で、もう大ファンでした。1つ勝つごとに岡部さんが一冠、二冠、三冠と指を立てていくポーズは、いつか自分もやりたいと憧れたものです。それがディープでついに叶ったわけですから。ルドルフの岡部さんとディープの僕は、三冠はどちらも同じ36歳なんですよね。ルドルフは、とにかく岡部さんとのコンビがマッチしている感じがありました。当時、僕が岡部さんに抱いていたクールなイメージと涼しい顔で勝つルドルフの姿が重なって、最強のコンビだと思いました。そういえば、僕はルドルフの引退式も見ているんです。競馬学校の外出日に中山競馬場に行ったんですよ。そのとき岡部さんが着ていたのがアメリカのサンルイレイSで着用した勝負服で、かっこよかったですねえ。

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ディープインパクトでシンボリルドルフと対決するならどう騎乗しますか?

近くで走れればいいんですが、でもおそらくルドルフの方が前にいるんでしょうね。

昔と今では馬場がだいぶ違いますからね。もしディープが勝ったときの東京競馬場が舞台なら、もともと相手に合わせてどうこうという馬ではないですし、自分の走りをするだけだと思います。逆にルドルフの頃のボコボコの芝でやるとなると、ちょっと事情は変わってきます。頭数も、当時の20頭を超える(1984年は21頭)競馬はディープには嬉しくありませんし。ルドルフの近くで走れればいいんですが、でもおそらくディープよりルドルフの方が前にいるんでしょうね。ルドルフはダービーこそ道中モタついていましたけど、デビュー戦は1000mでしたし、2回目の有馬記念なんか引っ張りっきりで4コーナーを回ってきたり、いろんな競馬ができる馬でしたから。いずれにせよ自分より前にルドルフのような強い馬がいるのは嫌なものですよ。楽なレースにはならないでしょう。

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この対決の結末はどうなると思いますか?

勝てるかどうかはわかりません。これだけ時代の離れた馬を比較するのは難しいです。

勝てるかどうかはわかりません。やっぱりこれだけ時代の離れた馬を比較するのは難しいです。そもそも、今はルドルフが前で競馬を作ってディープがそれを追う形を想像していますけど、実際に走ってそうなるかはまた別ですから。僕がルドルフを見たのはまだ騎手になる前でしたし、もし別の馬でいっしょにレースを走る中で見たら、また違うイメージが湧くかもしれないんです。僕にとってはオグリキャップがそうでした。敵としていっしょに走ったときのイメージが、自分がオグリに乗るときの参考になりました。そういえば、敵として走ったオグリには岡部さんが乗っていたこともありました。いっそのこと岡部さんがディープに、僕がルドルフに乗るのはどうですかね(笑)。僕もルドルフには乗ってみたいし、岡部さんがディープに乗るところは、すごく見てみたいですね。